ガンについて

がん患者さんに多い冷え性

「冷え」とは、末梢の血管が収縮して皮膚に流れる血液が不足し、手足や腰や背中などが冷たく感じる状態で、「冷え症」という病名が使われます。冷え症の状態が長く続いていて、冷えやすい体質を持っているという意味で「冷え性」と使う場合もあります。

西洋医学ではあまり問題にされませんが、漢方では「冷えは万病の元」という認識で、冷えを取る生薬は重要な役割を果たしています。

冷えを訴える人は多いのですが、がん患者さんは冷え症の方がさらに多いように思います。それは、冷えが抵抗力や治癒力の低下を引き起こし、がん発生の一因になっている可能性があるからです。また、がんの進行や治療で生じる体力の消耗やストレスが血液循環を悪化させて、冷えの原因となっているからかもしれません。

がん予防には肉を減らし野菜を多く摂取する食生活が基本ですが、野菜の多い食事やあっさりした食事は体の冷えの一因になります。

がん予防に理想的な食事や生活習慣を実践している方ががんになった場合、ストレスや冷えが原因ではないかと思うことがよくあります。科学的根拠はないのですが、経験的に、冷えはストレスとならんで、がんを発生させる要因の1つのようです。

冷えは治癒力を低下させる

細胞は外部から取り入れた栄養素を素材にして、タンパク質や脂質や核酸など細胞の構成成分を合成すると同時に不要なものは処分し、炭水化物や脂肪酸を酸化してエネルギーを作り出しています。この仕組みが物質代謝です。また、組織や臓器内においては、古くなった細胞が死んで、細胞分裂で新しい細胞が絶えず入れ替わっています。このような物質代謝と細胞の入れ替わりが、組織の新陳代謝です。

新陳代謝は、生体の恒常性維持機能や修復・再生機構の基礎であり、新陳代謝が悪い状態では自然治癒力は十分働きません。冷えは組織の血液循環やエネルギー産生や新陳代謝が悪くなった状態ですので、治癒力低下の指標と考えます。

がんの漢方治療においては、冷えを改善することは治癒力を高める上で重要な手段なのです。

再発予防の漢方治療では、免疫力を高めると同時に、血液循環や新陳代謝を良くすることを目標にします。そのとき冷えを改善する漢方薬をうまく使うことがポイントです。

食品や生薬に寒熱の区別がある

寒気や体の冷えなどの症状を訴え、温かい飲み物を好むような状態を「寒証」といい、新陳代謝や血液循環が低下し生体熱量が不足しているような状態と解釈されます。この場合には体を温める漢方薬を用いなければなりません。一方、身体の熱感、顔面の紅潮、冷たいものをほしがるような状態を「熱証」と呼び、この場合には体を冷やす薬で治療します。

それぞれの生薬には、体を温めたり冷やしたりするという性質(薬性)があり、寒熱の証に合わせて使用します。食品でもショウガやトウガラシは体を温めますが、キュウリやスイカや柿などは生で食べると体を冷やします。同様に、薬物の寒熱に基づいて熱・温・涼・寒性の4つ、あるいは平性を加えて5つに分類しています。熱性や温性のものは体を温め、涼性・寒性のものは体を冷やす作用を持ちます。冷え症や寒証の人には体を温める薬を使わなければなりませんが、熱のある人(熱証)や暑がりの人には体を冷やす薬が使われます。薬や食品を「温かい」だの「冷たい」だのというのは、西洋薬や健康食品では問題にされませんが、漢方ではこの寒熱の考え方を無視して薬を使うことはできません。

冷えを改善する生薬

熱産生は原則的に代謝の副産物です。代謝や循環が低下して熱産生が低下すると、体の冷えを自覚します。歳を取ると足腰の冷えを自覚するようになりますが、それは代謝が低下しているからです。このように体のエネルギー生成の低下(気虚の状態)が進行して、寒け・冷えなどの症状が強くなった状態を漢方用語で陽虚といいます。

川の流れも気温が下がれば凍りつくように、体も冷えが強くなると「気・血・水」の流れが滞りやすくなります。陽虚になると水分の吸収・排泄が低下するため消化管内や組織間に水分が停滞し、浮腫や水様性下痢になりやすくなります。血液の循環も悪くなると多くの臓器や組織の活動や新陳代謝はますます悪くなります。この悪循環を断つためには、代謝を亢進させて熱産生を高める必要があります。このような陽虚の状態を改善することを補陽といい、用いる生薬を補陽薬といいます。同時に、血液循環を良くする駆オ血や、体液の流れや水分の排泄を促進する利水薬を併用すると、冷えを改善する効果が高まります。

高麗人参、桂皮、附子、芍薬、当帰、川キュウなど多くの生薬に血管拡張作用が知られています。これらを服用すると、顔のほてりや発汗、手足が温かくなるなどの効果が出てきますが、これは末梢血管拡張作用の結果です。

体の冷えがあると、体内の水の代謝が悪くなるうえに、冷えにより腎臓の働きも低下して体外への水の排泄が悪くなり、体内に余分な水分が貯留します。これを水毒あるいは水滞といいます。水毒が冷えの原因になることもあります。したがって、冷えの漢方治療ではたまった水を追い出す利水薬も重要です。

比較的体力の低下した女性の冷えに使われる当帰芍薬散は、貧血を改善し血液循環を良くする当帰、芍薬、川キュウに、体液の流れを良くする蒼朮、沢瀉、茯苓を加えた漢方薬です。たまった水を追い出すことが冷え症の改善に効果があると考えた組み合わせです。

高齢者の冷えに使われる八味地黄丸には、新陳代謝を活性化し体を温める附子、桂皮に血液循環を良くする牡丹皮、体液の流れを良くする沢瀉、茯苓などが組み合わされています。

附子は補陽薬の代表です。成分のアコニチンというアルカロイドには血管拡張・血行促進・強心・強壮作用・鎮痛作用などがあり、体を温めて極度に低下した新陳代謝機能の活性化をします。桂皮には血行を促進して体を温め、元気をつけ興奮性を増し、腹中を温める効果があります。

乾姜はショウガを蒸してから乾燥したもので、体の中を温め、体の機能低下と低体温を回復させる目的で使用します。

冷え症の治療では西洋医学より漢方のほうがはるかに高い効果を発揮します。このような冷えを改善する生薬をうまく利用すると、がんに対する治癒力をさらに高めることができます。

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